空白雑記

暇つぶし

ネトゲ戦記 第ニ部「神獄のヴァルハラゲート」

purpleの企画を練ってる時に、入倉孝大くんと3人で話そうと谷直史さんにいわれて、どこか外で話したことを覚えてる。それがどこだったか思い出せないが、橋の欄干があったのだけは覚えているから、どこかの橋で話していたのだろう。

 

谷直史さんと入倉孝大くんからの要望は、①レベルアップシステムをスキルツリーというシステムにしてバトルのパラメータアップをつけたい②レジェンドレアを入れたい③レイドバトルは谷さんがサポートするので入倉孝大くんにやらせてあげたい だった

 

①については、何の問題もなく可決された。②については、彼は反対し、入倉孝大はやりたいといい、谷直史さんは良いか悪いかわからないから入れてみようと中立的賛成をとったので、1:2で可決された。③については不安もあったが、まあ駄目なら自分で引き取ろうと思って彼も賛成した。

 

社屋にみんなで出社するようになり、会社としての登記も済ませた辺りで、彼はイラストレーターに依頼する予算をくれといった。redのときからはかなり減額された予算になったが、彼はそれを割り振りしてイラストレーターの発注交渉もやりはじめた。

 

当時、会社によっては多分今もだが、ソーシャルゲームに依頼されたイラストは、イラストレーター自身は自由に公開することさえ出来ない空気があった。彼はredのときに簡単に著作権について調べて、redで使われているどこかからコピペしてきた著作者人格権ごと封じるテンプレ的契約書を見ていた

 

彼は、自分がイラストレーターだとしたら、誇るべき自分の描いた絵を自分の絵だと言うこともできないのはたいそう腹立たしいだろうなと思ったので、purpleではグラニは権利を借りるだけで、著作権をイラストレーターに残す契約にすることにした。自由に自分で使うなり公開してもらって良いと

 

谷直史さんは軽く反対した気がするが、結局ヴァルハラゲートというゲームとしてのまとまりを使えるのはグラニだけであり、イラストレーターは自分の担当キャラしか持たないのであるし、単体キャラでグッズが売れるくらい当たったらそれは大勝利だ。他のゲームに下ろさないことだけ縛ればよいとなった

 

 他に、red同様にゲーム内でイラストレーターの名前を出すことをアピールした。これも、別に何も困らないし、名前がバレたら引き抜かれる程度ならしょうがないという考えだった。それよりも、あなたの名前の宣伝にもなりますよと他に出来ないことをするほうが強そうだと思った。

 

まだゲームもリリースしたことのない会社で怪しかったと思うが、これらの条件が功を奏したのかはわからないが、受けてくれるイラストレーターもいた。彼はメモしておいた英雄達について、指示書を作ることにした。だいたい1キャラにつきペラ2だった

 

キャラクターは人間であるから、イメージを一番伝えやすいのはポーズであろうと思って彼はポーズの写真を指示書に添えた。このとき、相川雄太はいつも会社内で暇そうにしていたし、他のエンジニア等は皆忙しそうにしていたから、相川雄太をカメラマンにして、傘を得物に見立てて何百枚もポーズ写真を撮った

 

イラストレーターで受けてくれた人の名前を、この人が口説けたと言った時、それを理解してはしゃぐのは福永尚爾くらいだったので、多分福永尚爾だけがオタクだったのだろう。谷直史さんや入倉孝大は今思うと全くの無反応だった。興味がないのかなと当時は思ったが、今は違うとわかる

 

谷直史さんはベルセルクがバイブルで一番好きな漫画だと言っていた。後にグラニはベルセルクと単独コラボイベントをやるわけだから、あんまり読み込まないが、好きになった一つには公私混同をきちんとできる人なんだろう。仕事で公私混同をすることは、歪んでなければ悪くないと思う。大好きは強い

 

入倉孝大は全く彼と趣味の合わない作品が好きで人生で一番好きな漫画で感動して何回も読み込んでると言った。それはかなりの人気漫画で、彼が好きじゃないだけだ。全く趣味が合わないなと思ったので、彼はそれ以後漫画の話をふるのをやめた。

 

あとはそうだな、彼がカードマスタを真剣に作っていた時、福永尚爾だけは、このキャラの作り込みは素晴らしい、俺はこのセリフに萌えたと褒め称えてくれた。彼は照れ隠しに、そのセリフはこの俺が考えたから、俺がそのセリフを朗読してやるといって、うわーやめろーとか盛大にはしゃいでたら叱られた

 

まあ、それで福永尚爾にやたらと話をふって邪魔してたら、「水原さんは脳だけ培養液に浮かせて、仕様書やマスタなどの成果物を接続したプリンターから出力できる形にしたら、本当に最高の神のようなディレクターだと思う」と言われたのでシュンとした。なつかしいな

 

purpleを作っていた過程にはいろんな事があったと思うが、いちいち語るような強く印象に残ってることはそれくらいしかない。鉄火場で、夢中で、まさに駆け抜けたとしか言いようのない数ヶ月だった。本当に夢の中に居たのかもしれない

 

ただ、おそらく谷直史さんの裏切りにつながった、「レイドバトル事件」と「イラスト不要論大喧嘩事件」。これだけは語らなければならないだろう。

 

ヴァルハラゲートがだいぶ完成してきて、彼もリリース分を作り終えてリリース後のカードを組み始めた頃だったか。レイドバトルの進捗を調べることにして、NASにあがっているレイドバトルのマスタと仕様書を読んでみた。出来てなかった。

 

出来ていないにもいろんな種類があって、「何もできてない」と「見かけ出来てるけど完成しない」がある。後者だった。この設計では絶対に完成しない。仮に完成してもクソゲーにしかならない。レイドバトルの、無限に強くなる設計と完全に矛盾する設計で組まれていた

 

多分これがodinとかredの頃の話なら、彼は次の日に朝礼で議題にあげて詰めただろう。ただ、入倉孝大くんにそれをしてはいけないと思ったので、彼は生まれてはじめて根回しをしてみた。まず入倉孝大が居ない時に担当エンジニアに「これ完成しませんよね」と聞くと、そう思ってたという答えだった

 

ああ、今思うが、多分そのとき、”入倉孝大はその場にいなかった”が”他のエンジニアはその場に居た”気がする。彼は根回しのなんたるかが何もわかっていなかった。ともあれ彼は確認をとったので、その日の深夜、谷直史さんと2人だけになってからレイドバトルが出来てないと思うという話をした。

 

簡単に現状と問題点を整理しておいたので、それを見せて答えをまつと、数分考え込んだ後に、「そうだな、君の言う通り、このままじゃ完成しないな」と谷直史さんは真っ青な顔になった。彼は「俺が0から今から作りますから、その許可をください。入倉孝大くんにはフォローいれてください」と言い、了承された

 

そこからは本当に毎日必死にレイドを組んでたし、まわりの事は覚えてない。なんとか一週間ほどで作って、はーやれやれこれで懸念点はないな、俺達は勝つぜ!とはしゃいでたら、福永尚爾にサシで昼飯に行こうと呼ばれた。

 

ヒルズの横の通りにある、海鮮丼の店で食べ終わった後、福永尚爾は入倉孝大くんにもう少しフォローを入れたほうが良い、谷直史さんは入倉孝大くんを大事に思っているという話をした。彼は十分に根回しを頑張ったつもりだったので、俺はそれをやれているよと答えた。福永尚爾が彼に真剣に忠告したのは、多分これだけだ

 

彼はこれでも十分に入倉孝大に気を使っていたつもりだが、多分福永尚爾がこう言うほどに傷つけていたのだろう。ヴァルハラゲートは完成が見えてきて、デバッグが始まった。彼はredのときから、ガラケーが大嫌いでスマホでだけデバッグをしていた。ガラケーのUIが許せなかった

 

谷直史さんは彼に、ガラケーでもデバッグをしろ、空気を読めというような話をしてきた。彼は、今からガラケーの操作方法や仕様を1から覚えるより、詳しくて普段から使ってる入倉孝大くんがデバッグしたほうが効率がいいし、ガラケーは嫌いだから嫌だと言った。

 

彼は仕様でもめたら谷直史さんの意見を通そうとは思っていたが、この命令を聞くつもりはなく、断固として拒絶した。この辺りから、谷直史さんは彼になにかにつけ喧嘩を売るようになった。だからお前は駄目だとか、そんなんじゃ駄目だみたいな言葉を毎回言うようになった。彼はうんざりした

 

ある日の深夜、また谷直史さんと彼だけが会社に残って2人だけになったとき、「君が真剣にやってるイラスト発注、あんなのは無駄だからやめろ」と言った。谷直史さんはイラストのことを理解してくれていると思っていたので、「彼に喧嘩をうるために」無茶苦茶な事を言いだしたと思って彼はキレ返した

 

これはあくまで彼の想像にすぎないが、多分谷直史さんは「イラストを必要という彼に共感して」予算をつけていたのではなく、「暴れ馬の彼はこの餌を与えたらおとなしくなるみたいだから」予算をつけていたのではないかと思う。裁判資料を読み直してそう思う

 

深夜で他に誰も、止める人は居ない。売り言葉に買い言葉とはまさにこれ、3時位まで大声で喧嘩をしあって、もうお前なんかとやってられるか、俺はやめてやると宣言して帰った。開発で大事なことはログに残すので、チャットワークにはもう俺はやめてやるだけ発言してログを残した。

 

次の日、福永尚爾が必死にとりなして彼と谷直史さんは仲直りをすることになった。お互いに自分が悪かった、ごめん、今後はこうしますと宣言しあう儀式をした。谷直史さんはまったくこの儀式に納得いっていなかったようだが。

 

こんな大喧嘩のことは、ヴァルハラゲートがリリースできて、大成功して、みんなで夜中にやってる寿司屋に急遽押しかけて宴会をしたときは完全に忘れていた。俺たちはやった、やってやったんだとビールをかけあう勢いで5時まで飲んだ。でも谷直史さんは忘れていなかった。

 

 多分彼が覚えてるこれらの出来事が、谷直史さんが彼を裏切ろうと決めさせたのではないかと彼は思う。あくまで彼の想像なのでわからないが。彼は谷直史さんにとって重要な株を無償で分け与えるほど意味不明に不気味で、谷直史さんにとって重要ではないイラストで真剣に喧嘩をする、謎の恐ろしい怪物だったのだ