空白雑記

暇つぶし

ネトゲ戦記 第二部「社員総会」

谷さんは彼に、君はこの会社では冷遇され燻るだけだと言ったが、彼の主観では谷さんも冷遇されて燻っていた。この頃gloopsで評価されていたプロデューサーは、初期メンバーのウェイ系だった。社長もウェイ系だったのでこれはしょうがない。

 

彼は、プロデューサーとしては谷さんは有能だと思う。谷さんの下に他にまともな企画がいなかったのもあるが、よく雑談も兼ねて企画の話やゲームの話をした。彼はゲームフリークとしての話をして、谷さんはプロデューサー的な視点の話をした。

 

この頃谷さんから教わったことといえば、たとえば「水原くん、君は無料のIPってなんだと思う?それは、ファンタジーと、戦国と、三国志だよ。この3つにしか商機はない。バカはSFとかヤンキーに手を出す。最悪なのは戦隊モノだな。あんなのは売れるわけがない」至極もっともな話だと思う

 

ただ、隣の隣のチームは戦隊ものを作ってたし、さらに奥の方にはヤンキーとSFものを作っているチームもいた気がする。彼も谷さんも、能力を発揮しても評価されないというコンプレックスから、会社を恨んでいたと思う。

 

いや違うか、谷さんはこの時オーディンで実績を上げたが評価されず壁にぶつかっていたが、彼はこの頃、初めて力を発揮できる、裁量が多く与えられた仕事で感動していたように思う。だからそれを与えてくれた谷さんに、インセンティブ入れると年収2000万くらいだったかな?を捨ててついて行ったのだ

 

この頃谷さんに教わったことで、他に覚えてる印象深いことといえば、「詫び石はなぜ配るのか、正しい詫び石と間違った詫び石とは」とか、「人は何故ガチャを回すのか」とか、「SSRのカード枠とはどういう意味を持ち、どういう色形でなければならないのか」とか。

 

三国志バトルで谷さんがやったことは、彼の求めるものを用意したことと、彼の決定に認可を出したこと、ガチャの演出についてアドバイスしたこと、SSRのカード枠について担当しデザイナーに指示して作らせたこと、か。ディレクターとしての仕事はしてないがプロデューサーとしては良い仕事をした。

 

三国志バトルも順調で、一息ついてた頃、gloopsの社員総会が開かれた。彼は初めての参加だった。何故か谷さんが並んで座ろうと誘ってきたので、隣に座った。社員総会とは、社員全員でホールを借りて集まり、半期を振り返って功労者をねぎらう、いわば論功行賞だった。

 

論功行賞の場では、社運を賭けたはずだが殆ど売れず、谷さんがいつも悪口をこぼしていた、マジゲートの功労者達が壇上で称えられ、社長とヒゲダンスを踊っていた。オーディンバトルと三国志バトルを担当し、売り上げの一角を担っていた谷さんは呼ばれなかった。

 

谷さんはずっと俯いてプルプルと震え、血が滲みそうなくらい拳を握りしめ、床を見つめていた。パイプ椅子がキシキシきしんでいたが、何と声をかけていいのかわからなくて、彼はなにもできないでいた。

 

社員総会の翌日、夕方のリーダー定例MTGの帰りで谷さんにロビーに行こうと誘われた。雑談用に椅子とテーブルや、寝転がれるマット、テレビとゲーム機が置かれている、当時のベンチャーゲーム会社で流行ってた広間だ。その隅っこのほうに座るよう促され、座ると顔を寄せて、ひそひそとこう言ってきた

 

水原くん、俺と会社を作らないか。昨日の社員総会を見てわかっただろう。この会社にいても俺は評価されてない。あいつらはなにもわかってくれない。君もそうなる。君はゲームの天才だがこの会社にいるべきじゃない。俺と会社を作ろう。俺はずっと自分の会社を作りたかった。

 

だが知っての通り、俺は手が遅い。自分だけでは会社を作れる自信がなくてずっと悔しくても独立出来なかった。でも君となら会社を作れると思えた。君のために会社を作ってあげるから、俺と一緒に独立してくれないか。頼む

 

彼はオーディンバトルのマスタをみて、それが入倉の手によるものだと思っていたし、谷さんはプロデューサーとしては有能だが現場の作業能力はゼロだなと元から思っていた。ブラ三でもそういう盟主を神輿に担いだこともある。それどころか、谷さんは彼が納得のいくプロデューサー論を持つ。

 

谷さんの説明は、所々わかりにくく、多分彼くらいしかそれが素晴らしいと思わなかったのだと思う。彼は、そんな彼の評価と一致する谷さんの自己評価は適切だと思ったし、面白そうだと思ったので、いいですよ、辞めて会社作りましょうとその場で答えた。

 

そうか、一緒にやってくれるか、そうか、ありがとう。君とならやれるよ。谷さんは、段取りは俺の方ですすめて、また声をかけるといって離れていった。社員総会の翌日でみんな気が抜けていて、まばらにしか人のいないロビーで、こうしてグラニは産声をあげた。