空白雑記

暇つぶし

ネトゲ戦記 第三部「弁護士と録音」

弁護士を選ぶといっても、選び抜くような気力も時間もなかったので、今後何度も通う予感がしたので家から歩いて通える弁護士事務所のなかから一番良さそうなところにして、電話でアポを取り、相談料の話を了承して出向いた。

 

裁判、というものを経験してきた彼が思うに、弁護士というのはガンダムでいうモビルスーツのようなものだ。性能の良い弁護士は高いことが多いが、パイロットもその操作マニュアルを熟知するよう努力しないといい戦果は出せない。最終的な判断はパイロット次第だ。

 

それでいうと、彼が引き当てた弁護士は当たりだった。ここまで勝ってきた、というのもあるが、何より仕事ぶりに満足している。彼の弁護士も、彼の働きぶりには満足していると言っていたことが有る。7年もともに戦えばまさに戦友とよべる相棒である。すべてが終わった時には祝杯をあげるのが楽しみだ。

 

谷さんの方はというと、なぜかころころと弁護士が代わっていった。最終的に何人だ?ABCDEFGくらいまで登場したかな?意見書とかも大量に使ってきたので、裁判費用だけでもすごいことになってそうだなと思う。

 

弁護士事務所に行き相談料の説明を改めて受け、これまでの経緯をgloopsから独立したあたりから話した。1時間くらいかかっただろうか、弁護士が熱心に大量にメモを取っているのをみて、ああこの弁護士で良さそうだ、と思ったのは覚えている。

 

結論としては、「きっと法律で戦えることもあるが、まずは相手の出方を見ないとわからない。明日事務所に荷物を引き取りに行くというなら、そのときはやりとりの録音をしてきてほしい」と言われたので、次の日ICレコーダーをセットして新社屋に向かった。あれだけワクワクした新社屋はまるで魔王城だ

 

ここでの録音、3月4日録音は高裁での判決文でも指摘されるほどの重みを持った。谷さんは彼のことを舐めていたのだろう。もっと多い持ち分も提案されたのに、谷さんは71%も株を無茶苦茶な理由で独占したいといったのを飲んだそのうえで、入倉くんにわけてあげて同じ8%に、と譲った彼のことを

 

この持ち分の歪つさについては、その後この件で相談したlalha氏やその他多くの人から、「何故こんな条件を出されて信じて乗った、こんなのはまともな条件じゃない」とその度に説教を受けた。そのせいで彼は契約書について真剣に向かい合うようになった。

 

谷さんは裁判における証人尋問において「私は記憶力が悪く当時のことはほとんど覚えていないしわからない」と証言している。なので彼の記憶と録音、そして証拠に頼ることにしよう。

 

録音によれば、彼は自分が全てを担当していたイラストレーターの引き継ぎを最初にお願いしている。グラニなんていう新興の会社に誘って参加してもらったのだから、迷惑をかけたくなかったのだろう。この低姿勢が、なお谷さんを増長させたのではないだろうか。

 

彼はもう谷さんと命をかけて戦うつもりだったので、逆に腹が据わっていて、イラストレーターの引き継ぎが終わった後は、仕事場に持ってきてみんなに貸していた漫画は処分してくれだとか、あれはもう読まないだろうからとか、そんな雑談をしていた。

 

そうすると、谷さんは意を決したように話を切り出してきた。「君を悪いようにはするつもりはない、これまでの功労者として退職金を無理して800万、ひねり出そうと思う。これには会社として1200万がかかるし今は本当にきついが、君の功績に報いたい」猫なで声だった。

 

悪いようにするつもりはない、といったのはこのときだったかこの前の嘘の幹部会のときだったか。ただ、とにかくこの頃に谷さんから「悪いようにするつもりはないから」と言われた記憶だけは鮮明に残っている。それほど衝撃的な言葉だった。

 

これは彼の人生経験から言えることだが、「悪いようにはしないから」という発言をした人は全員最悪の敵だった。彼を悪いようにしたい人だけが「悪いようにはしないから」と言ってきた。面白いくらいに。

 

谷さんは、いかに彼に出す800万は温情に溢れたものかを説明したあとでこう言った。「だから、君のもっている8株は、1株1万円で会社に買い取らせてほしい。そのための同意書もこうして用意しておいたから、ここにサインしてくれるだけでいい。」

 

彼は当然、株の買取については拒否した。会社を辞めさせられるのはわかるとして、株を売るつもりはないと。ただ、どうしてもというならもちろん株を売ってもいいが、1万円というのはおかしい。今の値段を鑑定なりして値段をきちんとつけてくれ、彼はそう求めた。

 

彼が8%でいいと自分から持ち分を減らしたのは、株について無知で価値をわかってなかったからではない。価値をわかった上で分かち合い、刎頸の友となりたかったのだ。だがそれが決裂した以上、彼はきちんと自分の持っている知識を使う。

 

そうすると谷さんは、みんなを集めてどっちが正しいか証明しようとか、今後この業界で働けなくすることもできるぞとか、皆は株を譲らない君のことをクズだと思うぞとか、いろんな事を言った。株を譲らないなら、退職金の800万どころか、1円も払わないとも言った。だが彼はサインしなかった。

 

彼がどうやっても折れないのだとわかると、途端に谷さんは声を荒らげ、じゃあもう君は部外者だからここから出て行けと追い出した。なら、株主として定款等を見たことがないので、この機会に見せてくれと言うと、谷さんは「そういう機関に話をしてください」と言う

 

いや、これは株主の権利のはずだし、営業時間だから対応する必要があるはずですと説いても「そういう機関に話をしてください」「そういう機関に話をしてください」と同じことしか言わなくなった。そういう機関というと裁判所だろうか。もちろんこの後そういう機関でたっぷり7年も話をした

 

横から相川が出てきて、彼に彼の荷物のつまったダンボール箱を押し付け、今日は用意ができてないとか、登記をしてないからまだ用意ができてないとか、二人がかりで彼を社屋から外に力づくで追い出した。持てないぶんは郵送で送るからとにかく出ていけと。

 

会社には、ヴァルハラゲートでイラストレーターに発注したりシナリオを考えたりするために彼が買った大量の資料があった。それらについて経費になるのか、と彼がたずねてもあとで確認して連絡しますとの返答だった。

 

これだけの仕打ちを受けて彼は絶望しただろうか?逆だった。戦うと決めたのだから、これはきっと法律的に間違ってる。戦うための武器になる。まっすぐ家に帰って荷物をおいたら、録音のデータのバックアップをとり、それを持って弁護士事務所に向かった。

 

録音を一緒に確認した弁護士は、これは戦えそうですねと言った。この録音はこの後、本当に決め手になった。